俳句・短歌作品
(『科学と学習』収録作品ほか)



2005〜

・俳句

我にのみ視える友在り百葉箱

校庭の蟻の巣火星年代記

音の無いプラットホームの味の飴

目に当てたガラスの青に棲む人魚

仄白き目の無い鳥が哭いて海

痛む足・パチンコ・地獄・石の町

白球が消えて青空因果律

砂を噛む我を照らすな蠍の火

煙草屋の店番は犬十四月

ダイナモに斧振り上げよ月光狂

病める子に似し猫を抱き青の旅

テスラ忌の鳩空に溶け世紀末

明滅すテスラコイルと風の音

ぼんやりと得体の知れぬ菓子を食う

2009〜
 
ゴーフルのチョコ味だけを狙い撃ち

三日目はカレーうどんになりました

売る程の魂もなし寝正月

笑瓶の眼鏡もずれる師走かな

ふわふわの春の仔熊をベア・ハッグ

マルチーズにチワワという名をつけて呼ぶ

分け入っても分け入っても陰毛

あご下のたるみを猫にかじられる

金玉は心細さを知っている

突風でチワワが一瞬浮き上がる

2017〜

花と石 やわらかいもの かたいもの

パン割れば中にあんこのある不思議

あの夏のプールの青のガリガリくん

クリムトの金が流れて天の川

夕日裂く芒を我の剣として

ポケットの小銭冷たし都市の冬

滲む星凍える睫毛年越ゆる

転がれば芝温かき西日の子

釣り禁止スワンレイクの掟です

面影はフルーツサンドの断面図

かるかんの原材料はポメラニアン

平穏な鼓動午睡の山羊と俺

午後を統ぶ我の王冠タルト・タタン

柘榴忌や流石に今日は椅子を脱ぎ

積み木食む園児のカラフル木食行


異世界俳句

月二つ故郷は遠くなりにけり

元日やイグドラシルの若菜摘む

ウィスキー俳句

ジャズバーの老鴉は何を語りつむ

止まり木のカティーサークの登檣礼

・短歌

砂浜に夢見て眠る数百の真空管と君がほどけて

錆びついた給水塔に旗立てる十四歳の独立記念日

指を切る「少女架刑」の貸出票その痛みさえ恋というなら

草の海にジャングルジムは群れ生して月食を待つ影だけの子ら

モノクロの花火静かに海に消え波間たゆたう僕の右腕

切り裂き魔けさは哀しい夢を見てマリアの首を抱き震えり

泣きつかれアプリコットのジャムを煮る中年おかまの純愛のこと

怒り狂う火星人に囲まれて「話を聞け!」と言うたこ焼き屋

怒り狂うクトゥルーのしもべに囲まれて「また俺かよ!」と言うたこ焼き屋

無限より少しだけ遠い星に棲む少女に恋をしたNASA通信員

あのニャーは「旅に出ます」という意味か今日も帰らぬ猫と風船

売れぬのはお前のせいだとお互いに腹話術師と人形の旅

革命前夜お子様ランチの上に立つ見知らぬ黒き旗は静かに

※ヘッセ、『デミアン』に寄せて

背中咬む君の八重歯が遠くなりカインの徴いずこ に消ゆる

電線が空切りつける夕暮れにアブラクサスと呟きし春

※ヘッセ、『ガラス玉演戯』に寄せて

傍線を引きながら読めば傍線で埋め尽くされるガラス玉演戯

算盤と音楽を組み合わせたものならばトニー谷が祖かもしれない

『無貌の街』

古く重き扉の奥に魔女の棲む赤羽西口パブ「ビアズリー」

夜と朝のあわいに浮かぶ群青をその胸に抱き君は蒲田へ

工場で指失いし少年のギターが吠える川崎のブルース

夕暮れのサイレンの音にかき消され好きだと言えぬままに荒川

池袋編

夜明けにはカラスに戻るホストたち真実の愛を得るまでの呪い

タクシーの好きな女と病み犬が明治通りに磨り減っている

2007〜

野良犬が欠伸している明け方の鉛の海とナイフの色

石炭と球根だけを取り扱うセールスマンがなぜか外車で

お母さんあれは雑草なんかじゃないのたったひとりの友達だったの

「白い絵の具が一番甘くておいしいね」きらきらと降る水銀の雨

井戸に落ちる石の音だけ求めている優しい歌はもう聞きたくはない

幻燈の影絵の娘が踊ります喘息のよなバンドネオンで

2012〜

うろおぼえでト音記号を書くときは何かが多く何かが足りない

砂浜に真白に光る骨となりカンブリア紀の到来を待つ

ほらごらんよく似てるでしょうこの絵本あたいがリサであんたガスパール

クリネックス ネピア エルモア スコッティー なめると甘い鼻セレブなど

それはきっと露西亜の美人諜報員 コトリワ・トッテモ・ウタガスキー女史

とりあえず冷酒二合とあん肝を処方しておきますではお大事に

「見つけた!」とアジシオの瓶を掲げつつ錬金術師(アルケミスト)は目を輝かせ

己が名と同じパン屋で珈琲を飲む伯爵の永遠の旅

明けぬ夜は優しさなのか罰なのか静脈の血はロスコーの赤

2014 『野菜生活』

きらきらと静かに光る断面のズッキーニはきっと朝の神様

水切りに必死で腕を振ったので私はサラダで筋肉がつく

「芋虫も隠し味です」と言いながら気まぐれシェフは髭を捻じりぬ

独り寝の咳吸いこみし玉葱は夜に哀しい味の芽を出づ

2015 『鉄道短歌』

うたたねに浮間舟渡を過ぐるとき吾がたましいも荒川を越ゆ

白昼にアンコールワットの幻が加速してゆく代田橋駅

京急の肉桂色のドレープに抱かれ眠る午後の聖母子

2017〜

陰鬱な地下鉄の駅に置かれてる観葉植物の鉢植えである

色褪せてなおカラフルな公園の遊具のように生きていきたい

傷口より溢れ出でたる七色の熊のグミたち我にささやく

美しき間諜の瞳愁うときハンドマフより出づるベレッタ

無心にてバターナイフをねぶるのをウエイトレスに見咎められし

2022〜

100均の有線で不意に流れくるキリンジで泣く現象の名は

躊躇いつつ近付いて来る一角獣(ユニコン)に両手広げる中年童貞

晴れたので子午線をなぞる旅に出るアルミホイルでおにぎりを巻き

カエサルはシーザーサラダを食べたとき首を捻ってお代わりをする

倒立の補助をするとき何かしら象形文字が成り立たんとす

躊躇なく貴族の屋敷に付け火した燐寸売りの少女の頬の耀き

『月蝕短歌』

消えてのち再び昇る天球は 月ではないのよく似てるけど

あの月が電信柱の影に融け従いてくるので息を潜める

いま月はあなたの瞳の中にあるよく見せてほら瞬きしないで

お姉様ばかり構ってもらってる私が隠れても誰も踊らない

『クトゥルフ短歌』

インスマス生まれの人を好きになりスキューバダイビングの資格を取る

深海を故郷にもつ我をして名状しがたき妻の手料理

サンリオの総選挙にて暗躍すハンギョドンの支持母体という謎


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