きっかけは、一行の書き込みからはじまった。
「鉄拳制裁? 」
それに、一人の男がレスをした。
「4日間徹夜で鉄拳制裁? 」
レスはレスを呼んだ。
「アフリカの大地で光の速さでティッシュ片手に4日間徹夜で鉄拳制裁? 」
そしてレスは繋げ続けられ、
文字数が容量を超え、誰も書き込めなくなった頃、
その物語は完成していた。
1
コリコリと、口の中で音がする。
昨日、和民で食べた軟骨の唐揚げが歯に挟まっているようだ。そういえば昨日から、軟骨しか胃に入れてない。
野生のパンダは笹の無い冬、餌としてチンパンジーに頭から喰らいつくらしい…ふとそんな話を思い出した。
「いかん、疲れてるな…」
コンベアーから流れてくるチンパンジーを、尻の色で選別する。
松はピンク色で柔かそうな尻。竹は赤みが濃く、やや固い尻。梅は黒くてしわの多い尻だ。
一目で見分けるのには熟練を要するし、猿とて簡単に尻を見せてくれる訳ではない。暴れるチンパンにやられて再起不能になった同僚を私は何人も見てきている。
「パパ!」
仕事を終え、幼稚園に迎えに来た私にヒロトが駆け寄る。
「ちゃんと先生の言う事を聞いて良い子にしてたか?」
妻と別れて以来、仕事の後にヒロトを迎えに行く事が平日の日課になっている。
「うん!あのねあのね!今日はみんなで野球やったんだよ!!」
「そうかぁ、じゃあご飯の時に詳しく聞かせてもらおうかな?」
「うん!!」
「じゃあ先生、これで失礼します。」
「はい、お気を付けて。じゃあね、ヒロト君。パパにちゃんと大活躍したお話してあげるんだよー?」
「はーい、じゃあね、先生!」
「はい、さようなら、また明日ね。」
夕食は幼稚園の近くにあるファミレスで済ませる事が多い。
「でね、タカシ君が投げたボールを僕が思いっきり打ったらね、ホームランになったんだよ!!」
「そうか、ヒロト、凄いじゃないか。ちゃんとママに送る日記に書いておかなくっちゃな?」
妻が私にヒロトの親権を譲る為に課した条件、それは1ヶ月ごとの息子の日記を送る事だった。
「もちろんだよパパ!!」
11月23日。
我々調査隊の疲労は極限に達していた。ヒマラヤの山中に雪男を探しに出て数カ月。生き残ったのはわずか3人。引き返すなら今が最後のチャンスかもしれない。そう思った時、表で誰かが叫んだ。
「雪男がでたぞ!」
私は慌ててテントを飛び出した。
そして、甘い香りの向こうに君を見た。
美しくも激しい眩暈の中で。息を切らし追いかける僕。…届かないすぐ其処に君は居るのに。そして少し幼い顔の君が小さな声で言った。
「ウチはソバ屋じゃないですよ!」
受話器を何度も叩き付ける。分かってる。本当は電話なんか鳴ってない。そしてウチはソバ屋だ。麗かな空に誘われ、少し窓を開けた休日。退屈で、手にした本から落ちたのは、あの時から止まったままの笑顔。貴方と居た、鮮やかな記憶が蘇る。
あの、長い夏の終わりに、貴方はまるで、迷子の様な泣き顔で私に
「モコッチ!おいらモコモコ!」
信じていた世界の殻が剥がされる。千億の足跡が眼の前に広がる。軽い眩暈の後、漂う躯に記憶の洪水が直接流れ込む。
だが、私の記憶が正しければ私は、「ロボ超人」と罵られながらも、幼い頃から愛情をいっぱいに注がれて育てられてきた自分が、実は妾の子供だったという事実を知り、人間不信に陥ったコンボイ司令官と3つある内のうずらの卵の残り1つをどちらが食べるかでケンカになり、
「大体お前の足は臭いんだ!」
『うるさい、お前なんか昨日淫夢を見て夢精してたじゃないか!!』
とどんどんエスカレート。
しまいには核の打ち合いにまで発展し、そのとばっちりで世界が滅びて以来シャンプーが目に入っても「痛い!」とか、背中を鋭利なナイフで刺されても「ぎゃぁぁぁぁっ!!」とか、街中でカツアゲをしているガチャピンを見掛けても「あ!ガチャピンが幼い子供をカツアゲしてる!!!」とか、「手術室手術中」を噛まないで5回続けてとか、「空は海のこと思い青くなる 海は空を見つめて青くなる すーっと青く染まった夏に ゴクゴク飲みこまれないように キョーコはCと水分をゴクゴク飲んだ すーっと広がる水平線と ボトルの中の水平線が 同じ高さになったとき 空っぽだったキョーコのカラダに Cと水分がゴクゴクしみこんだ 透明なボトルは ゴクゴク音をたてて空っぽになり すーっとしみこむCと水分は キョーコのココロの風景に 水平線をつくりだした」を、英語でとか、言いたいことも言えないこんな世の中で、ヒトとかケモノとか昆虫とか、とにかく何かいっぱいの蠢くモノで行列のできる店のパティシエでありながら醤油とソースを49年間間違え続けた後、砂糖と塩を間違え続けること86年間ほっぺたをヒマワリの種でパンパンにしつつ、最初で最後の初デートであばらを6本もってかれつつも爽やかな笑顔で「この土ならいいサイバイマンが育つぜ」と呟き、アスファルト、タイヤで斬り付けながら、絶望を啜り、憎しみを喰らい、悲しみの泪で喉を潤しながら機敏な身のこなしでブロンドの長い髪をなびかせ熊にまたがり裸エプロンで乾いた風を絡ませ生のエリンギをピーナッツバターでムシャリとやりつつ故郷を捨ててアフリカの大地で光の速さでティッシュ片手に4日間徹夜で鉄拳制裁?
2
肌を切り裂き、詩人は血で語り始めた…。
餅。モチ。もち。見渡す限りの餅。ネヴァーエンディング・モチ。
「エミちゃん!魔法のオーブを使うんだギョロ!」
ピンク色の小動物が叫ぶ。
そして総てがモチの海に流されていった。
(暖かい…ここはどこギョロ?ああ…、懐かしいギョロ…ここは僕のお母さんのお腹の中だギョロ…。暖かい…とても安心するギョロ〜…。)
「何もかもが懐かしいギョロね」
烏龍茶を飲み干しながらピンク色の小動物はエミの言葉を思い出していた。
(もうピンク色の小動物には溜め息しかあげられないよ。いつも『ごめん』って空っぽの言葉ばかりもらっても私の心は全く救われないの。言葉の意味も知らずにこれ以上吐き出さないで。もう致死量を超えてしまったみたい。)
「靴なくしたり、石ぶつけたり、ちょこっと傷付けたりしただけなのに、何でいっつもこんなちっぽけで下らない事でキレてんのか理解不能ギョロ〜…ま、いっか。そのウチ忘れるギョロ。エミちゃん気分屋だから。僕はもうおねむギョロ〜。…ZZZz
z z…」
一方、エミは独り、部屋で「百年の孤独」を飲んでいた。
車から靴を片方だけ投げ出された事。河原で石を脛に思い切りぶつけられた事。様々な痛みと悲しみで塗り固められた記憶が部屋中を支配する。これ以上はもう傷付きたくない…。例え魂を束で捧げたとしても、神はこの茨にまみれた永遠の悪夢から解き放ってくれはしないだろう。雨が降り続き台地が癒されたとしても、祈りをも奪う暴君によって印された心の傷が癒える事はないだろう。
「あ〜、もう寝なくっちゃ!」
明るく振舞うエミ。
「明日はお気に入りの服を着てっちゃお〜☆」
もうすぐ真っ暗な朝が来る。 鈍色の重たい雲。ねっとりと絡み付く湿気。樹々はざわざわと悪意を囁く…。
その日は不安と暗い予感に満ちた幕開けだった。
「よいしょ、よいしょ。」
がんばって重たい荷物を移動するエミちゃん。
「重いの持つと背中にくるな?!」
今日はみんなに手伝ってもらってエミちゃんのお引っ越しみたいです。
「僕も手伝うギョロ。」
「いいよ!ピンク色の小動物!!私がやるから!!!」
「大丈夫ギョロ。」 ガリリリッ
「あああぁあぁ…私の買ったばっかりの23万1000円(税込)のソファが…」
「いやぁ〜ごめんギョロ〜。」
「…てめぇ悪気ねぇだろ?何か相手がキレてるから取りあえず謝ってるだけだろ!?」腸煮えくり返るエミちゃん。
「あはは〜、ごめんギョロよ〜。てっきり僕の体を気遣っていいって言ってくれてると思ったギョロ〜(笑)」
「んな訳ねぇだろ。いつもの自分が物を扱う感覚で人様の大事な物に触るんじゃねぇ!貴様の様な無神経な奴は万死に値する。モチに塗れて死ね。」
スルッ…右手の手袋を外すエミ。すると次の瞬間、
『ごりん』
真っ赤に染まる白い餅。
「エミちゃん!魔法のオーブを使うんだギョロ!」
ピンク色の小動物が叫ぶ。
気付くと冷たくなったカツ代の前で、ケンタロウは返り血に染まったまま立ち尽くし、震えていた。
「お、俺じゃない。ピ、ピンク色の小動物が…」
「話は署で聞こう」
年輩の刑事がケンタロウの肩を叩いた。いったい、どこで歯車が狂ってしまったのか。
鉄格子の窓から空が見える。その小さな四角い空に一羽の鳥が舞っていた。
一方その頃、度重なる激闘の末、奥歯に限界が来ていたユウサクは、烏龍茶片手に世界の中心を目指していた。
「ほほう。ここが世界の中心ですか。」
ユウサクは熱海に来ていた。それにしても豚人間の数の多さには気が滅入る。
「あ、温泉まんじゅうだ!」
そう言うやいなや、ユウサクは落ちている小石を口に入れた。次の瞬間、「コキッ」という音と共にユウサクの奥歯は折れた。
「アキーーーー!!!」
ユウサクは世界の中心で、愛を叫んだ。
一方、そのころ、エミたちは敵の基地深くに潜入していた。
ぺったん、ぺったん
「エミちゃん、この杵僕には重過ぎギョロ〜。」
「あはは、餅つきって楽しいねぇ?ピンク色の小動物?」
餅に水を足しながらエミちゃんはニッコリと微笑んだ。
「何が楽しいねぇ?ギョロ。正月でもないのに餅ついてるやつなんか全宇宙でココだけギョロ。そして僕はピンク色でもないギョロ!!」
「よし、ピンクの小動物!杵のスピードをもっともっとアップよ!!」
「あのう…もー、こーなりゃヤケだギョロ!!」
ぺったんぺったんぺたんぺたんぺたんぺたんぺたぺたぺたぺたたたた…
「あっ!危ないギョロ!!…あ。」
『ごりん』
真っ赤に染まる白い餅。
「エミちゃん!魔法のオーブを使うんだギョロ!」
ピンク色の小動物が叫ぶ。
空を飛ぶ魚、海を泳ぐ鳥。そして増殖し続ける豚人間。眼下に果てしなく広がる瓦礫の山。
もはや、我々は死を待つのみかと思った。
しかし、その時一陣の風が吹いた。
するとどうだろう、いくら食べてもうどんが減らないのだ。
何だか終わりの無い夢でもみている様な感じだった。
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